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ものがたり

中通り

岳温泉の武田さん、遠藤さん、影山さん、渡辺さん

  • 嗚呼!絶景

岳温泉 命がけの湯守たち

全国的にも珍しい‘‘酸性泉’’が湧く、二本松市の岳温泉。平安時代から愛されてきた名湯だ。
この源泉を守っているのが、「湯(ゆ)守(もり)」と呼ばれる男たち。
民宿を営む武田喜代治さん、和菓子店主の渡辺茂雄さん、配管工の遠藤憲雄さん、それに観光協会の影山政敏さんの4人だ。

本職と掛け持ちで務める「湯守」の仕事。
毎週1回、温泉街の8キロ上流、安達太良山の中腹にある源泉を目指し、山に登る。

 

最も厳しい作業になるのは、山が雪に覆われる冬。
数メートルの雪に埋もれた道をスコップで掘り進みながら、急斜面をスノーシューズで行く。
ひどい時には片道6時間半。吹雪の日でも、山に向かう。
ついていった取材クルー。何度も足をとられ、30分ほどでクタクタに。
目的地が、いつまで経っても近づかないことに絶望感を感じる…。
「慣れてるから全然きつくないです。だって向こうに着いてからが仕事の本番。
“通勤の途中” で弱音なんて吐いてられないでしょ?」と、湯守たちは笑顔で語る。

4人の湯守が、毎週、山に登るのは、文字通り、温泉街の湯を守るためだ。
硫黄成分の多い岳温泉の源泉。地中から湧き出て空気に触れた瞬間、「湯の花」ができる。
その「湯の花」が湯管を詰まらせると、温泉街まで湯が届かなくなる。
湯守たちは、この湯管にこびりついた「湯の花」を掃除するため、毎週、山に登るのだ。

実は江戸時代まで、温泉街は源泉のすぐ近く、山の中腹にあった。
ところが、土砂崩れや戊辰の戦乱など数々の不運に巻き込まれてしまう。
そのたびに、移転を繰り返し、温泉街は、源泉から8キロ離れた現在の場所に落ち着いた。

 

その結果、岳温泉には、源泉からの長い湯の道を守る「湯守」の仕事が誕生したのだ。
源泉に辿り着いてからの作業はさらに過酷さを増す。

まず行うのは、2メートル以上の雪の中から源泉を掘り出すこと。
その作業は、命がけだ。
源泉の周囲には、お湯の熱で雪が溶けた大きな空洞がある。
そこには、少し吸い込んだだけで命を落とすほど濃度の濃い硫化水素ガスがたまっているのだ。
間違って穴の中に落ちてしまうと即死の恐れもある。
湯守たちは慎重に穴を開け、湯管の中に手製のたわしを通し、こびりついた湯花をこすり落としていく。
源泉は15ヶ所。それを3回に分けて、毎週、掃除していくのだ。
3週間後には、新たな湯の花で、管は詰まる寸前になっていると言う。
「やらないですむなら楽だけど、やらないとお湯が来なくなるから。それが分かってるから、結局やる」
リーダーの武田さんはそう言って、豪快に笑った。

湯守が源泉を掃除した日、ふもとの温泉街には、ある僥倖が訪れる。
上流でこそげ落とされた「湯の花」が流れつき、ふだんは透明な温泉の湯が、白色に変わるのだ。
週に一度だけ現れるこのにごり湯を、人々は「当たりの湯」と呼び、心待ちにしている。
「白い方がいかにも体にいいって御利益ありそうですよね。色だけでね。それがまたいいんですよ」
とびきりの笑顔でお湯に浸かる人たち。
恵みの裏に、湯守たちの奮闘があることを知る人はほとんどいない。

 

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