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ものがたり

中通り

三本松尚雄さん

  • 嗚呼!絶景

秋の夜空に“出撃”!

秋。福島の夜空は澄み渡り、満天の星が輝く。

空気中の不純物が少なく、大気が安定する秋の夜長は、絶好の天体観測シーズンだ。

 

去年の秋、世界中の天文マニアを唸らせた一枚の天体写真がある。

 

 

赤く光るのは、地球から7000光年離れた「わし星雲」。

横切るのは、6年半に一度だけ地球に接近する「ジャコビニ・ツィナー彗星」。

右側には、その彗星が放つ光の尾から出た流れ星を捉えている。

時空を超えた「奇跡の写真」と称賛されたこの一枚。あのNASAが数万枚ともいわれる作品の中から「今日の一枚(Astronomy Picture of the Day)」に選出した。

 

撮ったのは、いわき市に住む三本松尚雄さん、53歳。

わずか6年前に写真を始めた、アマチュアカメラマンだ。

 

 

 

昼間の顔は、税理士。首都圏を中心に顧客を抱え、各地を飛び回る。

 

 

 

天体写真家としての活動は夕方、空模様をチェックするところから始まる。

気象衛星による最新の赤外線画像や、天気予報で雲の流れを予測。

何時にどこに行けば星空が撮影できるか、見極める。

「星は晴れないと話にならない。その判断が成功か失敗かの、関ヶ原です」

星空を撮りに行くことを「出撃する」と表現する、三本松さん。

まさに、これは星空との闘いだ。

 

 

 

この日、戦いの舞台に見定めたのは、いわきの水石山。

しかし、予報は曇り時々雨。出発時には雨が降っていた。

それでも三本松さんはわずかな可能性にかける。

「西側にある晴天域が、こちらまで来るのではないか」

 

 

 

現場に到着しても、雨は降り続いていた。半ば諦める、私たち取材班。

しかし三本松さんは、自分の読みを信じて待ち続ける。

1時間後…

「星が見えてきた」

双眼鏡を覗いていた三本松さんはそう呟いて、急いで撮影の準備にとりかかる。

しかし肉眼では星はほとんど見えない。

それでも三本松さんは「このあと晴れる」と言い切る。

 

 

 

すると、三本松さんの予想通り、空を覆っていた雲がみるみる晴れていく。

三本松さんは撮影に向けて最後の調整を急ぐ。

「気温が下がると望遠鏡が縮んでピントがずれる。星は本当にわずかなところでの勝負」

 

 

 

この日、微妙な調整を繰り返し、撮れた写真がこちら。

秋の星空の主役「アンドロメダ大星雲」を美しく、捉えた。

 

 

 

奇跡の写真を生み出す三本松さんが写真を始めたのは、原発事故のあとだった。

故郷・いわきから避難していく人も多い中、家族とともに留まることを決めたものの、不安な日々が続いていた。

 

そんなある時、娘が夏休みの自由研究で天体写真を撮影することになった。

その手伝いをした三本松さん。写真を見て、心が震えた。

 

 

「下を見れば、辛い現実もある。一方、同じ現実として空にはこんなに美しい世界がある」

 

天体写真の魅力にとりつかれていった、三本松さん。

作品をSNSに投稿すると、全国から反響が寄せられる。

「原発事故で大変な中で、福島の星空の写真を発信し続けるのは、とても大切なことだし、すごく頑張っているなと思える」。

県外の写真仲間からかけられた言葉は、三本松さんが発信を続ける原動力になっている。

「いわきや福島の美しい一面を見せるという役割を、自分はもしかしたら担っているのかもしれない」

 

 

日中は仕事だというこの日も、夜通し撮影していた三本松さん。

人生まだまだパワフル!

上を向いて、青秋を生きていく。

 

 

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